総合診療プログラムの概要
総合診療プログラム責任者 森川暢
プログラムの特徴と目標
JADECOM総合診療プログラム「地域医療のススメ」“奈良”について
「地域医療のススメ」“奈良”は,公益社団法人地域医療振興協会(以下JADECOM)の設立の目的である「へき地等の医療の確保と質の向上をはかり,もって地域の振興を図る」を達成する為に必要な総合診療専門医を養成するために立ち上げられたプログラムです.
JADECOMでは独自に日本のへき地や離島などの医師不足地域で研修を行う家庭医療後期研修プログラム「地域医療のススメ」を2005年に設立し,日本プライマリ・ケア連合学会認定の研修プログラムとなった後も多くの家庭医療専門医を育成し,日本の地域医療・僻地医療に貢献してきました.「地域医療のススメ」には今までプログラム基幹施設という概念はなく,JADECOMという組織全体でプログラムが運営されていたため,今回の新専門医制度開始にあたり「地域医療のススメ」“奈良”の基幹施設として市立奈良病院を設定いたしました.
高齢化の進む奈良県においては,都市部でも田舎でも老若男女に関わらず一人の人をトータルで見ることのできる医師が求められています.医療や介護の制度も複雑となり,また個人の生活,ニーズも多様化してきた中で,異なるニーズに的確に対応できるだけでなく,患者それぞれの背景を考えて診療に当たることが必要です.また診察室の自分の眼の前に来ない,地域の人々を見る眼を持ち,地域全体のために自分の知識や技術を提供することの出来る「地域を診る視点を持つ医師」が必要です.
「地域医療のススメ」“奈良”はそのようなニーズに応えることのできる,<地域医療の5の軸>を意識した診療を行うことができる医師を育成します.これは日本専門医機構の定める7つの資質・能力を包括しています.これらの軸によって目指す理想の医師像は「求められる役割に応じて協調,変容でき,あらゆる問題に対応できる能力をもった総合診療医」です.
<地域医療の5の軸>
- ① 患者によって自分を変える.
- ② 患者や問題の種類により差別をしない.
- ③ 生物学的問題だけでなく心理社会的問題も重視する.
- ④ 臓器,人にとどまらず,家庭・地域も視点とする.
- ⑤ 診察室に来ない人のことも考慮する.
<日本専門医機構が定める7つの資質・能力>
- ① 包括的統合アプローチ
- ② 一般的な健康問題に対する診療能力
- ③ 患者中心の医療・ケア
- ④ 連携重視のマネージメント
- ⑤ 地域包括ケアを含む地域志向アプローチ
- ⑥ 公益に資する職業規範
- ⑦ 多様な信用の場に対応する能力
市立奈良病院における教育の特徴
JADECOM総合診療プログラム「地域医療のススメ」“奈良”についての4つの特徴
① 家庭医療の理論を学び実践することで未分化な問題,多併存疾患への対応力を強化する
家庭医療の指導医から家庭医療の理論を学び実践することで高齢者医療,緩和ケア,終末期医療などにも強い総合診療医になることが可能です.
② 臨床推論を核とした総合内科的な能力をみにつける
初診外来,病棟,救急など幅広い領域で診断困難症例や未診断症例を経験できます.指導医からのフィードバックや回診を通じて,診断困難症についてどのようにアプローチするかを学ぶことが可能です.
③ 救急に強い総合診療医として幅広い急性期問題を扱う
全科対応型のER型救急を経験し実践することで救急に強い総合診療医として幅広い健康問題を扱うことが可能です.希望者はICU研修も行うことが出来ます.
④ 地域研修で幅広い健康問題に対応する力をみつける
地域研修を行い適宜指導医からフィードバックももらうことで,住民のニーズに応えるために幅広い健康能力に対応することが可能になります.
教育コンテンツ
- 臨床推論カンファレンス,ジャーナルクラブ,教育レクチャー,レジデントデイなどの多種多様なスキルを磨くためのコンテンツを用意
- 経験豊富な指導医から直接フィードバックをもらう.
- 地域医療振興協会の全国的なスケールメリットとITを生かして,多施設の指導医のレクチャーも受けることが出来る.
- 新家庭医療専門医のプログラムにも対応して,全国の地域医療振興協会として一致団結して専攻医教育を行います.
研修施設とローテーション
専門研修基幹施設
市立奈良病院総合診療科が,専門研修基幹施設となります.市立奈良病院は奈良県北部二次医療圏の各種専門診療を提供する急性期病院で,総合診療専門研修特任指導医が常勤しており,総合診療科にて初期診療にも対応しています.
専門研修連携施設
本研修PGの施設群を構成する専門研修連携施設は以下の通りです.全て,診療実績基準と所定の施設基準を満たしています.
- 天理よろづ相談所病院
- 奈良県立医科大学附属病院
- 健生会土庫病院
- 専門研修施設群
本研修PGの施設群による研修コース例を示します.研修1年目は基幹施設である市立奈良病院での総合診療Ⅱ・救急・小児科研修を行います.研修2年目では近隣にある天理よろづ相談所病院において内科の研修を行います.3年目の前半は,市立奈良病院でICU・整形・皮膚科の選択研修を行い,後半は青森県のへき地である東通村診療所で総合診療Ⅰの研修を行います.4年目は,在宅療養支援診療所である奈良市立都祁診療所にて総合診療専門研修Iを行い,最後の2ヶ月間をOHSU家庭医療学講座での海外研修を行います.
なお,希望者は麻生飯塚病院で緩和ケア研修を行うことも可能です.
取得可能な資格
日本専門医機構 総合診療専門医
日本プライマリ・ケア連合学会 新・家庭医療専門医
研修終了後
全国の地域医療振興協会の施設で,病院総合医,家庭医,在宅医など多種多様なキャリアパスで指導医としての道を歩むことが出来ます.
希望者は海外留学も可能です.