がん標準治療について 胃がん
1.胃がんとは
胃がんとは、胃壁の粘膜内の細胞ががん細胞に変化し、無秩序に増殖を始めたものです。内視鏡検査などで発見される大きさになるまでには、数年かかるといわれています。進行するに伴いがん細胞は胃の壁の中に入り込み、固有筋層、漿膜やさらにその外側まで広がり、近くにある大腸、膵臓や周囲の腹膜にも広がっていきます。がんがこのように広がることを浸潤(しんじゅん)といいます。浸潤が粘膜~粘膜下層にとどまるものを早期胃がんと呼び、浸潤が固有筋層より外側に広がったものを進行胃がんと呼びます。
2.胃がんの主な治療方法
胃がんの治療は、大きく切除術と非切除に分けることができます。
- 切除術
胃がんが切除可能であれば、原則としては切除術が治療法として選択されます。また、切除したがんを詳しく調べることにより胃がんの深達度やリンパ節転移の範囲が明確に決定されることから、さらにその後の経過観察や治療方針が決定される場合もあります。
胃がんの残存を防ぐため、広範囲胃切除術に周囲のリンパ節も含めて切除する外科的胃切除術が標準的治療法として行われています。最近では腹腔鏡下胃切除術により、傷が小さく体に負担の少ない手術が可能です。
さらに、進行度診断において転移の可能性がほとんどないと予想される一部の早期胃がんに対しては、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)により全身麻酔、開腹手術を要することなく、胃カメラで胃がんを切除することにより外科手術と同等の治療効果が得られます。 - 非切除
胃がんの進行度や体の状態、他疾患などの理由で切除が不適当と考えられる場合には、非切除的な治療法が選択されます。抗がん剤による全身化学療法は、抗がん剤の選択、投与法および副作用抑制法の進歩により、治療成績が向上してきています。
3.胃がんの予後
診断や治療の進歩により、胃がんの予後はずい分改善してきました。胃がんの治療は、その進行度に応じて標準的治療法が決められており、たとえば最も早期の段階であるステージIAで診断、治療できた場合の5年生存率(治療後5年間の生存確率)は胃癌治療ガイドライン(2004年版)によれば93.4%に達しています。
その一方、進行した状態で発見された場合は治療が難しいこともあり、生命に危険がおよぶことは従来と変わりません。最も進行したステージⅣの5年生存率は同ガイドラインによれば16.6%とされています。
早期胃がんといえども治癒率は100%ではありません。治療後は再発の監視、早期発見のために、経過観察、通院が必要となります。
4.胃がんの予防
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が胃がんの原因となることが明らかになっています。ピロリ菌感染は日本人に非常に多く、70歳代以上の方では約70%、50歳代の方で約50%に感染が認められています。一方20歳代以下の若年者では感染率が低く、これは上下水道などの衛生環境の改善によるものと考えられています。
現在ではピロリ菌感染による慢性胃炎の方に対するピロリ菌の除菌治療が保険適応され、胃がんのリスクを低下させる効果が期待されます。胃がんの予防には、できるだけ若い時期に除菌治療を受けた方が、得られる効果は高いと考えられます。除菌治療には、ピロリ菌感染の診断と胃カメラによる慢性胃炎の診断が必要です。健康診断で慢性胃炎と診断されたり、ピロリ菌感染が認められたりした場合は、積極的に除菌治療を受けましょう。